商標「ありふれた氏」に該当する特許庁の審査基準 
昨年7月に我々からお送りしたニュース紹介におきまして、「こんの」の商標が「今野」や「紺野」に通ずる「ありふれた氏」に該当するものとして拒絶審決がなされたという事例を紹介いたしました。ここでは、「全国の苗字」及び「日本の苗字7千傑」という二つのウェブサイトの検索結果を利用して同じ氏をもつ人の数や世帯数を割り出し、「今野」や「紺野」の氏がありふれているかどうかを判断していました。
なぜ私がこの審決にこだわるかと言いますと、これまでの特許庁の審査では、氏や名称がありふれているかどうかを判断する材料は特許庁の審査基準に従って、一貫して50音別電話帳に掲載されている氏の数で判断されてきたものが、当該審決では、信憑性も定かではない前記二つのホームページを使って「氏」がありふれているかどうかを判断したものであったためです。こうした背景には、固定電話契約件数の減少や、電話帳へ掲載しない家庭の増加などといった事情から、電話帳はもはや「氏」の数を正確に反映するものではなくなったとの認識が特許庁にもあったのではないかと予想されます。
そこで次に湧いてきた疑問は、これらのウェブサイト情報を使ったとして何人程度又は何世帯程度の氏があれば「ありふれた」とされるのかという問題です。これまでの審査では、東京23区50音別電話帳で30世帯とか50世帯などと言われてきました。そこで、今までの審決データの中からこれらボーダーライン付近にあるような名前をピックアップして、上記「全国の苗字」というウェブサイトで検索したところ、なかなか興味深い結果を得ることができましたのでここに紹介させていただきたいと思います。
・1,000世帯以下のケース
検索の結果、世帯数が1,000に満たないケースでは登録されているケースが多いような印象を受けました。氏がありふれているかどうかを争点として登録審決となった事案として、例えば、「タキヤ」「ナガキ」「トヨムラ」「五嶋」「吉浜人形」「かも井/KAMOI」などの商標がありましたが、滝谷姓は801世帯、永木姓は773世帯、豊村姓は656世帯、五嶋姓は940世帯、吉浜姓は561世帯、鴨井姓は163世帯というデータを前記ウェブサイトから得ております。もちろん、世帯数が1,000に満たなくても拒絶審決とされたケースはありましたが、その数はかなり少ないものでした。
・1,000世帯〜3,000世帯のケース
世帯数が1,000〜3,000程度ですと、登録審決とされたケースと拒絶審決とされたケースとが混在しており、この辺りがボーダーなのかなという印象を受けました。例えば、登録になった事案として、「HAMAYA」「辰巳」「いぶき」「常盤」「YASUMA/ヤスマ」が、拒絶になった事案として、「KUZUMI」「MAMIYA」「HIOKI」「もがみ/最上」「吾妻」「IKE」などがありました。その数を見ると、登録された浜谷姓は1,940世帯、辰巳姓は2,823世帯、伊吹姓は1,363世帯、常盤姓は2,117世帯、安間姓は1,170世帯であり、拒絶された久住姓は1,129世帯、間宮姓は2,823世帯、日置姓は2,902世帯、最上姓は1,925世帯、吾妻姓は1,297世帯、池姓は1,790世帯というデータでした。
・3,000世帯以上のケース
世帯数が3,000を超えると登録された事案はかなり少なくなります。最初に紹介した「こんの」も「今野」の世帯数は20,000世帯近くありましたから拒絶されたのも当然でしょう。しかし、3,000世帯以上あっても登録された例は散見されます。例えば、「NOMA」「桂」「YAMATO」「YOSHIMI」などの商標は、野間姓4,374世帯、桂姓3,529世帯、大和姓5,384世帯、吉見姓3,942世帯となっておりますが、氏がありふれているかどうかを争った末に登録審決となっております。
データから見た結果としては以上のとおりではありますが、審決に至るまでには、当該商標から直ちに名前と認識されるか、名前以外にも他の意味が生じないかなど、様々な要因が考慮されるわけですので一概に数だけで結論が出せる問題ではありません。しかし、中にはなぜそういう結論になったのかよく分からないケースがあることも事実です。いずれにせよ、「ありふれた」と言えるかどうかが問題となった場合には、客観的なデータが何もなければ水かけ論的な議論に終始してしまい、それでは拒絶を覆すことは困難となってしまいますから、こうしたデータを常日頃から収集し、客観的で説得力のある反論ができるよう磨きをかけていきたいと思います。 |