パテントコラム

2017年2月

【Topic.1】故人の名前は誰の商標?

先月の中部経済新聞では、『「直虎」商標、誰のもの?』との見出しの下、浜松市が「直虎」の商標登録に対して異議申立をしたという記事が掲載されておりました。今、「直虎」といえば現在放映中の大河ドラマの主人公「井伊直虎」を思い浮かべる方がほとんどでしょう。ところが現在登録でもめているのは、このような「井伊直虎」という姓名ではなく、「直虎」という名の部分である点がポイントの一つかと思います。
歴史上の人物の名称については、比較的緩やかに登録が認められていた時代があったのですが、一私人が歴史上の人物名について独占権を所有できるのは好ましくないとの理由から、約8年前に商標法4条1項7号の商標審査便覧が改正されました。かかる改訂審査便覧では、①歴史上の人物の周知・著名性、②国民・地域住民の認識、③その人物名の利用状況、④その利用状況と指定商品(役務)との関係、⑤出願の経緯・目的・理由、⑥その人物と出願人との関係といった事情を総合的に勘案して登録の可否を決するとされております。これにより、かつては登録が認められていた「坂本龍馬」や「吉田松陰」などは商標登録することは極めて難しくなりました。同様に「井伊直虎」も井伊家と全く関係ない第三者が出願しても登録できないものと考えられます。
ところが、その人物名をもって誰を指すものであるのかある程度特定できてなければこの審査便覧も効いてきません。そのため、「井伊直虎」であるなら人物を特定できますが、「直虎」で果たして人物を特定できるのか、という問題が生ずることになります。新聞によると、被異議申立人である「直虎」の商標権者は、長野県須坂市藩主「堀直虎」の没後150年イベントのために権利を取得したと記載されていました。他にも佐賀県には「鍋島直虎」という藩主もいたようです。大河ドラマの放映以降は「直虎」=「井伊直虎」のイメージが定着したと思いますので、今後の登録は難しいとは思いますが、大河ドラマ放映前は、「直虎」といっても複数人想定できたがために登録できたものと考えられます。

因みに、来年の大河ドラマの主人公は「西郷隆盛」です。そして、そのドラマのタイトルは「西郷どん」、これで「せごどん」と読むようです。調べたところ「せごどん」の商標は、酒や食料品の商品分野で既に複数の商標登録がありますので、鹿児島市あたりは頭を悩ませていることと思います。これからも同じような問題が繰り返し起こることが容易に想定されますので、行政も何等かの手を打つべきでしょう。商標権の効力の制限規定である商標法26条の運用変更や法改正により対応できる余地があるように思います。