パテントコラム

2019年8月

【Topic.1】SNSを利用した商品広告に関する警鐘

8月5日のネットニュースに興味深い記事が掲載されていました。A氏が、自身が所有するフェラーリのボンネットにスニーカーを載せて写真を撮影し、それをインスタにアップしたらフェラーリから警告状が届いたというのです。
最初に見出しを見たときは何と高飛車なんだという印象を持ちました。フェラーリ様に靴をのせるなんて失礼極まりない、というのが警告の内容なのかと思ったからです。この警告に対して、A氏の弁護士は全く根拠のない主張だと言っており、A氏も今のところ全く引くつもりはない様子です。
しかし記事を読み進めると、フェラーリの主張は全くスジが通っていないというものでもないように思えてきました。A氏はドイツ人のファッションデザイナーであり、そのA氏自身が手掛けたブランドのスニーカーが問題とされている靴です。写真に掲載されているフェラーリは、グリーンメタリックというあまり目にすることのない色彩で塗装されたものです。そして、そのスニーカーはフェラーリのその色彩に極めて近いカラーで造られているのです。それがフェラーリのボンネットの上に置かれ、すぐ下には「Ferrari」のロゴと跳馬のエンブレムが写り込んでいます。
フェラーリの主張は、フェラーリのブランドの評判を傷つけるということだけでなく、A氏のブランドの認知度を高めるために自身の商標を利用しているというもののようです。本件は外国での事件ですが、これを日本の商標法に当てて考えてみると、全く的外れなことを主張しているわけではないように思うのです。

商標法は、広告に標章を付して提供する行為は「商標の使用」になると規定しています(第2条第3項第8号)。自身がデザインしたスニーカーをインスタにアップする行為は、この宣伝広告の一つと捉えることは可能です。本件は、確かにスニーカー自体にフェラーリの商標が付されているわけではありません。しかし、フェラーリと同じ色調でデザインされたスニーカーのすぐ下に「Ferrari」のロゴやエンブレムが掲載されていると、まるでフェラーリとコラボした商品のように見えてしまうことは否めません。実際にはフェラーリが全く関与しないスニーカーであるにも関わらず、その広告物の中にフェラーリの商標を登場させることによってフェラーリとコラボレーションしているかのように映るとすれば、出所の混同という問題が生じ得る場合はありそうです。つまり、A氏の行為は靴の宣伝広告に他人の商標である「Ferrari」を使っているに等しいものだから商標権侵害であるという主張が日本の商標法下では成り立つ可能性があるのです。

本件は外国の事件ですので、当該国の法制度や判例の下でどういう判断となるか微妙なところまでは分かりませんが、インスタに他人の商標が写った商品画像を載せる行為がいけないわけでないことは世界共通の認識か思います。この事件は、他人の名声にタダ乗りして「コラボ商品」であるかのように見えてしまうところがある点が肝なわけですが、こうした行為はついうっかりやってしまいがちな気持ちも分かります。しかし、このように事件に発展するケースもありますので、宣伝広告の局面では、コラボ商品のように映っていないかどうかのチェックを行い、あらぬ誤解を受けないよう注意をする必要があろうかと思います。