パテントコラム

2020年11月

【Topic.1】世界知的所有権機関(WIPO) タン事務局長就任

(2020年10月2日 日本経済新聞)

WIPOの事務局長に、シンガポールで特許庁長官を務めたダレン・タン氏が就任しました。アジアの出身者がWIPOのトップに立つのは初めてとのことです。国連の専門機関の一つであるWIPOは、知財に関する国際ルールを策定し、また、知財の出願制度の運用を行う組織であるため、組織運営には高度な中立性と公正性が求められます。
今回の事務局長選では、中国が事務局長を擁立しようとしていましたが、米国が外交力で当選を阻止したと言われています。2019年の特許の国際出願件数は中国がトップでしたので、手数料収入により運営されるWIPOにとって中国は重要な顧客ではあります。しかし、仮に中国人がトップに立った場合は、出願情報が中国に流出し、知財に関する国際ルールが中国寄りになることが危惧されていましたので、このタイミングでタン氏が6年の任期を務めるのは歓迎すべきことと捉えています。

【Topic.2】著作権大型訴訟、最高裁に グーグル対オラクル

(2020年10月9日 日本経済新聞)

グーグルとオラクルの間で争われていた著作権侵害訴訟が米連邦最高裁判所に舞台を移したとの記事がありました。この著作権訴訟は、グーグルがスマートフォン用OSとして開発した「アンドロイド」に、オラクルが権利を持つプログラミング言語「Java」のコード約1万1000行を無断で組み込んだことが知的財産権の侵害行為に当たるとして、10年前にオラクルがグーグルに対して約1兆円にもなる損害の賠償を求めて提訴したのが始まりです。一審ではグーグルが勝訴したものの控訴審ではそれが覆されたため、グーグルが連邦最高裁判所に上訴し、このほど審理が開始されました。これまでの訴訟の中で、グーグルは、オラクルのコードはソフトウェア同士を繋ぐための重要な基盤技術であるから、これを特定の企業(オラクル)が独占すると市場で競争原理が働かなくなると主張してきたようですが、アップルやマイクロソフトはうまくこの技術を回避してOSを開発したことを指摘する判事がいたり、7割以上のシェアを握るグーグルが今更競争原理を盾に自己弁護する姿勢には各方面から批判もあるようで、さすがのグーグルも今回の裁判は苦しい立場に立たされているように感じられます。ただ、私としては裁判の勝敗よりも弁護料の方が気になってしまいますが。