パテントコラム

2022年12月

【Topic.1】判例紹介:「自律型思考パターン生成機」事件

本件の事件番号は、平成29年(ワ)第15518号で、判決は、東京地裁民事第40部により、令和元年6月26日に言い渡されました。
本件は、AI関連発明の技術的範囲に関するもので、特許権の侵害訴訟(差止及び損害賠償請求)です。
特許権は3件用いられており、それらの番号は、特許第5737641号、特許第5737642号、特許第5807829号です。ここでは、特許第5737641号の請求項1を取り上げます。当該請求項1は、次に示す通りです。尚、次では、判決の通りに分説しています。

1A 画像情報,音声情報および言語を対応するパターンに変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,
1B パターンの設定,変更およびパターンとパターンの結合関係を生成するパターン制御器と,
1C 入力した情報の価値を分析する情報分析器を備え,
1D 有用と判断した情報を自律的に記録していく自律型思考パターン生成機。

判決の内容外の感想ですが、かように極めて広範に見受けられる特許権が得られていることに驚きます。
そして、判決の内容ですが、結論は請求棄却(非侵害、特許権の技術的範囲に属さない)で、重要な部分は、構成要件1Dに関する次の部分です。

構成要件1Dは「有用と判断した情報を自律的に記録していく自律型思考パターン生成機。」であるところ,本件特許1の特許請求の範囲の記載によれば,自律型思考パターン生成機が自律的に記録していくのは,情報分析機により入力した情報の価値を分析した結果,有用と判断された情報であるので,本件発明1に係る自律型思考パターン生成機が自律的に記録するのは,情報分析器が有用と判断した情報に限られると解するのが自然である。
そして,本件明細書等1には,「入力した情報の価値を分析し,有益と判断した情報を記録して,有用と判断した情報を自律的に拡大していく機械は従来無い」(段落【0006】),「この発明における思考パターン生成機は入力した情報の価値を分析する。…分析の結果,有用と判断した情報は,識別した分野に分析結果を追加して,パターン記録器に記録していく。」(段落【0022】),「以上の▲1▼から▲5▼の分析により入力した情報は分析され,情報としての価値が評価される。・・・価値の高い情報は言語パターンとしてパターン記録器に記録し,価値の低い情報(判決注:誤記を修正)は記録しないこととする。これにより,有用な情報が逐次蓄積され,膨大な知識がパターン記録器に構成されていくことになる。」(段落【0030】,【0046】,【0053】)などの記載があり,発明の効果の項にも「第2の発明によれば機械に情報を記録する場合,人間が逐次,情報の価値を判断し有用と判断した情報を逐次,機械に入力し記録する等の作業を実施する必要がない。」(段落【0065】)と記載されていることからすれば,本件発明1は,有用と判断した情報のみを記録することが前提とされていると解するのが相当である。
そうすると,本件発明1に係る自律型思考パターン生成機が自律的に記録するのは,情報分析器が有用と判断した情報に限られると認めるのが相当である。
原告は,本件製品のパンフレットの記載などに基づき,「仕事を覚える」,「処理マップを自分で作成する」,「知識を保存・応用する」,「知識を自動的に応用する」などの行為を行うには,「有用と判断した情報を自律的に記録していく」ことが必須であると主張する。
しかし,情報として得た知識を保存し,関連する情報の接続関係を把握する機能を有していれば,問題となっている事例と関連・類似する事例を情報の結合関係から特定し,その解として結合されている情報を提示することができ,これにより上記の機能を発揮することは可能であるから,必ずしも,入力する情報の有用性について判断し,有用な情報のみを記録するとの機能を備えている必要はないというべきである。
かえって,本件製品のビデオ(甲12・図5)には,全ての質疑応答がアメリアの経験と知識に加えられる旨の記載があり,これによれば,仮にアメリアが情報分析器を備えているとしても,あらゆる情報をいったん記録しつつ,その中から有用な情報を抽出等する構成を採用しているとも考えられるところ,本件製品のパンフレット等には,本件装置が入力された情報の入力性について判断し,有用な情報のみを記録するとの機能を備えていることを示す記載は存在しない。
そうすると,本件装置が「仕事を覚える」などの上記行為を行うことができることから,直ちに,同装置が入力された情報の有用性を判断し,有用と判断された情報のみを記録する機能を有するということはできない。
したがって,本件装置は,構成要件1Dを充足しない。

かように、AI関連発明の技術的範囲は、記載上、抽象的であり、極めて広範であったとしても、明細書の記載や効果の記載等により実質的に判断される傾向にあるものと存じます。
裏を返せば、AI関連発明の特許出願は、他の分野に比べて請求項の記載が抽象的であると思われたとしても、特許に十分なり得ることになります。権利化後の技術的範囲の解釈が他の分野に比べて狭くなされる傾向にある(今後の裁判例の蓄積が待たれる)ところですが、権利取得による牽制効果が、技術的範囲の抽象性、広汎性により、他の分野に比べて高いものとなりそうです。