パテントコラム

2023年4月

【Topic.1】判例紹介:「多色ペンライト」事件

本件の事件番号は、令和2年(行ケ)第10103号で、判決は、知的財産高等裁判所第3部により、令和3年10月6日に言い渡されました。
本件は、無効審判の請求成立審決(無効審決)の取消請求訴訟で、特許権者が原告、無効審判請求人が被告です。特許権の番号は、特許第5608827号です。この特許権に対し、都合3件の無効審判が請求されており、それらの番号は、無効2016-800068、無効2017-800141、及び無効2019-800025であって、本件は最後の無効審判の一次審決に関します。
本件発明は、コンサートや各種イベント等で主に観客や参加者が用いるペンライトに関するもので、大要、3原色(赤緑青)のLEDに加え、白LED及び黄LEDを有し、イエローとライトイエローをより明確に識別する等の演色性の向上という課題を解決します。
審決で採用された無効理由は進歩性で、大要、本件発明と引例1の発明(甲1発明)との相違点である黄LEDの設置につき、引例2に記載の技術事項(甲2技術事項)における演色性の向上のために黄LEDを設ける旨の記載を参考にすれば格別困難なことではない、というものです。

判決は、原告の請求を認容し、無効審決を取り消しました。
即ち、判決は、進歩性の判断においては、主引用発明と副引用発明又は周知の技術事項の技術分野が完全に一致しておらず、近接しているにとどまる場合には、技術分野の関連性が薄いから、主引用発明に副引用発明又は周知の技術事項を採用することは直ちに容易であるとはいえず、それが容易であるというためには、主引用発明に副引用発明又は周知の技術事項を採用することについて、相応の動機付けが必要である、としました。
そして、判決は、甲1発明に関し、黄色の発色自体に問題が内在しているという課題は示されていないと判示すると共に、審決が甲1発明の課題に関して認定する「演色性」は、発色バランスの崩壊防止や全体的に綺麗な発光を意味し、審決が甲2技術事項に関して認定する「演色性」、即ち照明された物体の色が自然光で見た場合に近いか否か、とは異なると判示し、更に、審決は、甲1発明に甲2技術事項を採用す動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っており、甲1発明には、甲2技術事項と共通する課題があるとは認められず、そのため甲1発明に甲2技術事項を採用する動機付けがあるとは認められない、と判示しました。

かような判示事項は、進歩性の判断において課題を重視する昨今の流れに乗ったものと捉えられます。又、本件では、進歩性を判断する対象の発明における課題と引例の課題との相違よりは、主引例(甲1発明)の課題と副引例(甲2技術事項)の課題との相違が注目されており、興味深いです。更に、記載上「演色性」で同一であっても、甲1発明の「演色性」の中身と甲2技術事項の「演色性」の中身を掘り下げることで、これらの相違を見出しているところも、興味深いです。
ペンライトを最も愛用するであろうアイドルグループのファンは、推しの担当色でペンライトを光らせたく、ライトイエロー担当のファンは、イエローとはきちんと区別された薄黄で光らせたいものでしょう。「演色性」のあるペンライトには一定の需要があるものと思料され、その技術発展、及びこれに関係する本件は興味深いです。
尚、本件の審決取消により差し戻った無効審判では、二次審理を経て、無効不成立の二次審決が、令和4年5月27日になされています。