パテントコラム

2024年1月

【Topic.1】「アップルウォッチ」米で販売再開

(2023年12月29日 日本経済新聞)

アップルウォッチが販売中止になるという報道を最近よく耳にするようになりました。実際に何が起こっているのか、整理して解説したいと思います。
販売中止の対象となっているのは、最新機種の「シリーズ9」と、冒険家やスポーツ選手などを対象とした「ウルトラ2」の2機種です。これら2機種に備わっている血中酸素濃度を測定するパルスオキシメーター機能が、米医療器具メーカーのマシモの特許を侵害しているとして、昨年10月、米国際貿易委員会(ITC)が輸入禁止命令を出しました。ITCというのは、米国特許権を侵害する製品が海外から流入するのを差し止める権限をもった税関のような組織です。アップルウォッチの多くは中国をはじめとする米国外で生産されています。中国製等のアップルウォッチがアメリカに輸入され、それが世界に向けて拡散していくという状況の中、中国等からアメリカに輸入される段階で特許権侵害として輸入禁止命令が出てしまったのです。
米バイデン政権はITCの決定を覆す権限を持っていますが、ホワイトハウスはITCの輸入禁止の決定を支持し、これを覆す判断はしませんでした。そこで、アップルは直ちに米連邦巡回控訴裁判所(ITCなどの決定を審査する権限を持つ。)に不服を申し立て、法的手続中は輸入禁止措置を停止すること、つまり、設計変更を条件にその期間は輸入できるようにしてほしいと主張しました。これを受けて裁判所は27日に輸入禁止命令を一時的に差し止める決定を下しました。記事のタイトルにある「販売再開」というのは、ITCの輸入禁止の命令が裁判所に差し止められたことによる「輸入解禁」を意味しています。
アップルウォッチは腕時計型端末の分野で世界シェアは第一位、その周辺機器を含めた23年9月期の売り上げは5.6兆円にもなるそうですので、そう長い間販売中止を食らっていたのでは大損害を被ることになるでしょう。それも輸入解禁で当面は凌げることになったかに思われましたが、今年1月17日に裁判所は命令の一時差し止めを解除する決定を出しました。これにより、アップルウォッチの2機種は再び輸入できないという状況に直面していますが、紛争が解決するまで高利益率のウォッチを販売できないのは痛手が大きいためか、当面の間、パルスオキシメーター機能を無効化したウォッチを販売していくようです。