パテントコラム

2025年8月

【Topic.1】判例紹介:「車両誘導システム」事件知財高裁判決

特許権の侵害訴訟において、原審での特許発明の技術的範囲に属さないとの判断が控訴審で覆った事例として、「車両誘導システム」事件知財高裁判決を紹介いたします。
本件で主張された2つの特許、即ち本件特許1、2(特許第6159845号、特許第5769141号)は、1つの特許出願を起源とする多数の分割出願の内の2つに基づいており、本件特許1、2に係る本件特許発明1、2は、何れもETCゲートに関します。他方、特許権侵害の被疑物件である原審被告に係る被控訴人システムは、被控訴人システム1~4の計4種類で、佐野サービスエリアのスマートインターチェンジにおける上下線(2種)の出入口(2種)となっています(2種×2種=4種類)。
本件の事件番号は、知的財産高等裁判所令和2年(ネ)第10042号であり、判決は令和4年7月6日に言い渡されています。原審の事件番号は、東京地方裁判所平成31年(ワ)第7178号です。
以下、本件特許発明1-1(本件特許1の請求項1の特許発明)と被控訴人システム1(佐野SAスマートIC上り入口)とに関し見ていきます。
まず、被控訴人システム1について、原審判決から引用します(下線は筆者)。

≪被控訴人システム1の構成要素及びその位置関係≫
≪被控訴人システム1の動作フロー≫
(ステップS101)
一般道路からレーンaに進入する車両は,車種識別ユニット⑪をノンストップで通過することにより,軸数,車長等のデータが取得されて,課金のための車種識別が行われる。
(ステップS102)
車種識別ユニット⑪を通過した車両は,更に車両検知器⑫設置部に至り,黄色と黒の縞模様が付された開閉バーによって構成される発進制御機[開閉バー]①の手前で一旦停車する(その時点で発進制御機[開閉バー]①,④,⑤は閉じている)。
(ステップS103)
車両が車両検知器⑫設置部に進入することにより,路側無線装置③の通信機能が稼動し,路側無線装置③と車両に搭載されたETC車載器との間で無線通信が行われ,車載器情報がチェックされて,課金のための入口情報が書き込まれる。
(ステップS104)
無線通信が可能な場合は,開閉バー①が開くと共に,レーンb前方の発進制御機[開閉バー]④が開き(発進制御機[開閉バー]⑤は閉じたまま),車両は乙SA内へ前進する。
(ステップS105)
車両検知器②が車両の通過を検知すると開閉バー①が閉じ,車両検知器⑥が車両の通過を検知すると開閉バー④が閉じる。
(ステップS106)
無線通信が不能又は不可の場合は,運転者に対し,インターホンによる音声でその旨の報知がなされ,レーンd手前の発進制御機[開閉バー]①及び⑤が人的操作によって開かれ,車両は退出ルートdに退出する。

次に、本件特許発明1-1の構成要件について、分説、抜粋のうえ次に示します。

A1
有料道路料金所,サービスエリア又はパーキングエリアに設置されている,ETC車専用出入口から出入りをする車両を誘導するシステムであって,
B1
前記有料道路料金所,サービスエリア又はパーキングエリアに出入りをする車両を検知する第1の検知手段と,
C1
前記第1の検知手段に対応して設置された第1の遮断機と,
D1
車両に搭載されたETC車載器とデータを通信する通信手段と,
E1
前記通信手段によって受信したデータを認識して,ETCによる料金徴収が可能か判定する判定手段と,
F1
前記判定手段により判定した結果に従って,ETCによる料金徴収が可能な車両を,ETCゲートを通って前記有料道路料金所,サービスエリア又はパーキングエリアに入る,または前記有料道路料金所,サービスエリア又はパーキングエリアから出るルートへ通じる第1のレーンへ誘導し,ETCによる料金徴収が不可能な車両を,再度前記ETC車専用出入口手前へ戻るルート又は一般車用出入口に通じる第2のレーンへ誘導する誘導手段と,を備え,

(G1~H1 省略)

I1
前記第1の検知手段により車両の進入が検知された場合,前記車両が通過した後に,前記第1の遮断機を下ろし,前記第2の検知手段により車両の通過が検知された場合,前記車両が通過した後に,前記第2の遮断機を下ろすことを特徴とする
J1
車両誘導システム。

原審判決では、次に引用する通り、本件特許発明1-1の構成要件B1~D1に係る、車両の逆走を許さず後続の車両と衝突するおそれの防止という課題から導出される「第1の検知手段」、「第1の遮断器」、及び「通信手段」の位置関係を、被控訴人システム1が充足しないとして、被控訴人システム1は本件特許発明1-1の技術的範囲に属さないと判示されました。

・・・本件各発明における技術的課題の1つとして,車両の逆走を許さず後続の車両と衝突するおそれを防止するというものがあり,本件各発明は,これを解決できる構成を採用したものであることが認められ,そうである以上,少なくともその「第1の遮断機」は,料金所等のETC車用レーンに進入した車両が,「通信手段」とのやりとりの結果ETC車用レーンから離脱させるべき車両と判定される可能性に備えて,「通信手段」よりもETCレーンの入口側に位置して,車両の進入が検知された場合にはこれが下りることにより,進入した車両のバック走行を止める構成であることが必要というべきである。すなわち,「第1の遮断機」との構成は,本件各発明の課題解決原理(技術的思想)に照らして検討するときは,「通信手段」よりもETCレーンの入口側に位置することが必要というべきであり,料金所等への車両の進入が検知された場合に,その遮断機を下ろすことにより,目標とする進路への通行を止められた車両のバック走行及び後続車との衝突防止を図ることができる点に,その技術的意義があるものというべきである。
しかして,被告各システムにおいては,第1の遮断機(発進制御機①)は,通信手段(路側無線装置③)の先に配置されており,かかる被告各システムの構成によっては,目標とする進路への通行を止められた車両のバック走行及び後続車との衝突防止を図ることはできない。
以上によれば,被告各システムは,本件各発明の「第1の検知手段」及び「第1の遮断機」と,「通信手段」との位置関係に関する,構成要件B1,C1,D1・・・をいずれも充足しないものというほかない。

これに対し、本件判決では、次に引用する通り、請求項において当該位置関係を特定する記載がないこと、又、本件特許発明1-1の作用効果は、一般車がETC車用出入口に進入した場合又はETC車に対してETCシステムが正常に動作しない場合に車両を安全に誘導するものであることを理由に、被控訴人システム1は本件特許発明1-1の技術的範囲に属すると判示されました。

本件各発明の特許請求の範囲の記載は、・・・「第1の遮断機」、「第1の検知手段」及び「通信手段」が設置される位置関係を特定する記載はないから、それぞれが設置される位置関係によって構成要件該当性が左右されるものではないというべきである。
・・・本件各発明は、本件作用効果1(一般車がETC車用出入口に進入した場合又はETC車に対してETCシステムが正常に動作しない場合であっても、車両を安全に誘導する車両誘導システムを提供すること)を奏するものであるところ、「通信手段」がETC車載器から受信したデータにより、ETCによる料金徴収が可能か判定され、各遮断機が適切なタイミングで動くことにより車両が安全に誘導できるのであれば本件作用効果1は奏するのであって、「通信手段」がETC車載器からデータを受信するタイミングにつき、車両が第1の遮断機を通過する前後のいずれであっても、本件作用効果1を奏することが可能である。

更に、本件判決では、控訴審における被控訴人の、被控訴人システム1では発進制御機[開閉バー]①、⑤が人的操作によって開かれるため、係員の手を煩わせてETC本来の目的が達成できず、構成要件F1を充足しない、との主張を、次のように退けました。

被控訴人は、被控訴人各システムでは、車両が退出ルートdに自動誘導されるわけではなく、係員の手を煩わせることになってETC本来の目的が達成できない状態となるから、構成要件F1、F2の「第2のレーンへ誘導する誘導手段」との文言を充足しないと主張する。
しかしながら、本件特許の特許請求の範囲の記載をみても、「第2のレーンへ誘導する誘導手段」が自動誘導である旨の記載はなく、本件明細書をみても、「誘導手段」に係員が関与することを除外する記載はない。そして、被控訴人各システムにおいては、発進制御機[開閉バー]①及び⑤が人的操作によって開かれているものの、インターホンで係員を現地に呼び出す必要はないし、また、発進制御機[開閉バー]①及び⑤が開くことで、車両は第2のレーンの方向に前進することができるので、バック走行によりレーンから出ようとするおそれはないから、「インターホンで係員を呼び出す必要があるので渋滞が助長されること」、「車両がバック走行をして出ようとすると後続の車両と衝突するおそれがあって危険であること」という本件各発明の課題を解決することができ、「車両を安全に誘導する車両誘導システムを提供する」、「先行車と後続車の衝突を回避し得る安全な車両誘導システムを提供する」という作用効果を奏することができる。・・・
そうすると、「第2のレーンへ誘導する誘導手段」について、被控訴人の主張するとおりに限定的に解釈すべき理由はなく、上記被控訴人の主張は採用できない。

原審の判断が控訴審で覆った事例は稀で興味深く、紹介させていただきました。